いつものようにひな子と一緒に並んで駅まで歩いた。学校から帰るときには西日が私たちの右頬に当たる。朝はやっぱり右頬に昇る日の光を受けるので、右側だけ日焼けするような気がする。
「帰りに駅でお茶する?」
 と私は言った。うん、いいねとひな子は言ったので、私は嬉しくなった。お茶と言っても紙カップを一杯買うだけ。どうして話題が尽きないのか不思議だったけれど、他愛ない話を何時間話しても楽しかった。
 自動販売機の前にあるテーブルにつくと
「そうだ、見てほしいものがあるんだ」
 とひな子は言った。
「何?」
 ひな子はくたびれた鞄をごそごそかき回して、紙の束を取り出し私に手渡した。
「これ。小説書いたんだ」
 私はぽかんとしてひな子の顔を凝視した。小説を書いていることを知らなかったからだ。小説を書くタイプに見えなかった。ひな子は私の表情に気付かず、羞恥を隠すような仕草で口元に手をやり、視線を泳がせていた。
「応募しようと思って。岡崎に見せてだいぶ直して、とりあえずは読めるようになったから。まだ直すとこいっぱいあるけど、良かったら読んでほしいなって……」
 ひな子はそこで私があまり歓迎しているふうに見えないことに気付いた。私は別の人の名前が出たことにまたショックを受けていた。岡崎が誰か思い出そうとしていた。ひな子と同じクラスだったような気がする。
「小説書いてるなんて全然知らなかった」
 私は何とか取り繕うとしたが、うまくいかなかった。裏切られたと思った。私の知らない間に、ひな子は別の世界を作っていた。ひな子は何か言おうとして口を開いたが、結局何も言わなかった。私はカッと頬が火照るのを感じた。
「素人で小説書いてるなんてバカみたい!」
 紙の束をテーブルに叩き付けると、思わぬ力が入ってカップが倒れてぱっと紙の上にコーヒーの染みが広がった。あっと思ったがもう遅く、そうなるともうむしろ紙の束を破り捨てたい気分になった。
「絶対読みたくない!」
 私は立ち上がって、ひな子から逃げた。ひどいことしてるのかどうかも分からなかった。私を裏切ったひな子をもっと傷付けたかった。


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煽りレスからお題を拝借。
メンヘルだけど小説を書いている方のスレ2枚目
>>84さん、晒してごめんなさい。
でもネタとしてすごく楽しかったです。この間高校のときの友人と再会したばかりだしね。ちょうどこういうのが書きたい気分でした。

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 菜々子は自分が女の子らしいかどうかずっと気にしていた。三人姉妹の末っ子で、年の離れた姉たちは完璧できれいで、ああいう女の人になりたいと思った。菜々子は相当のシスターコンプレックスがあり、そのことに彼女自身が気付くのはずっとあと、家を出て大学に入ってからだ。
 菜々子にとって強烈な思い出になっているのは三人で美容院に行ったときのことだ。菜々子は幼稚園、二人の姉はそれぞれ小学4年生、中学1年生だった。美容師さんは何を思ったか、菜々子の髪を男の子のようにカットしてしまった。三人もいるのだから一人くらい男の子だと思ったのだと言う。それ以来、菜々子にとって「女の子に見えるかどうか」が深刻な問題になってしまった。
 菜々子はいつも背伸びしたがった。レースやピンクの花柄のハンカチに憧れた。母や姉が持っているのと同じものを持ちたがった。ズボンなんて大嫌い。寒い日でもスカートを履くと言ってきかなかった。
「小学生になったら毎日嫌でもスカートを履くことになるのよ。スカートに飽きちゃうから今はズボンを履きなさい」
 と言う母の言葉に内心「スカートに飽きちゃうことなんて絶対にない」と思いつつ、一理あるように思われたので、お互いに妥協してスカートとズボンを両方履いて幼稚園に行った。
 小学校になってもその気持ちに変わらなかったけれど、菜々子はどうやったら「女の子らしく」なれるのかが分からなかった。服は姉のお下がりばかり、髪はいつも短くて(母曰く、前髪が伸びると目が悪くなるから)、菜々子は一人で外を歩くのが嫌いで、美容院は大嫌いだった。
 姉ばかりでなく他の同世代の女の子と比べても、自分は流行りのことも何も知らないし、女の子らしいところがちっともないような気がしていた。
 こっそりきれいな雑誌を買ってみたけれど……それは高校生向けの雑誌で、書いてあることの半分も理解できなかった。ただパリの女の子の服がすごくかわいくて、菜々子もそんな格好をしてみたかったけれど、田舎の小学生には無理な願いだった。
 ある雨上がりに、菜々子が友だちと帰っていたときのこと。友だちは菜々子に傘の先を見せて言った。
「傷がないでしょ? 傘の先、引きずらないで歩いてるんだ」
「本当だ」
 菜々子はすごくびっくりした。彼女の傘の先はずるずる引きずって歩いているせいでぼろぼろだったからだ。
 こんなこともあった。
「待って、菜々子、リボンがほどけてるよ」
 走ってるうちに、リボンがいつの間にかほどけていたらしい。よく見るとボタンも一つ外れていた。他の女の子たちにくすくす笑われて、菜々子は浮かれて走っていたのが恥ずかしくなった。
 姉も他の女の子もものを大切にして、菜々子みたいになくしたりぼろぼろにしたりしない。格好も気を遣っていつもちゃんとしてる。
 菜々子もそうしたかった。先がきれいなまま傘を使いたい。
 でも傘を腕にかけて歩くのはちょっと疲れた。それで菜々子はつい傘を地面にずるずる引きずってしまうのだった。

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書く練習。「か」→「傘」
老女を書いたので少女。

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 外谷村の長之助という若者が八幡神社に参った帰路のこと。山中にて夕方も近くなり、あたりに人家もなく、宿を探すべくもなく諦めてかけていたところ、薮中に崩れそうな家があった。近くに寄って見れば明かりが点り人の気配がする。家には老婆が一人住んでおり、宿を求めたところ泊めてくれることになった。
 真夜中、長之助がふと目を覚ますと、老婆が包丁を持って枕元に立っていた。飛び起きて老婆を取り押さえると、長之助が昔老婆を捨てた男に似ていたので積もり積もった恨みが思い出されて魔が差したという。
 仔細に聞くと、老婆は昔ある男と文を交わすほどの仲になったという。だが男は隣村の女と結ばれることになっていたのだ。騙されたと気付いた老婆は男からもらった文を破り捨てるも、かえって行き所のない怒りは身の内に残ってしまった。そして男に似ている長之助を見て、あの男が戻ってきたように思えて殺そうと思ったと。
 そう話しているのはもはや老婆ではなく、美しく若い娘が身を震わせて泣いていた。
 お前の顔はあの男そっくりだと娘は言い、言いながら長之助を見つめるうちに、娘の口がゆがみ、その口の間から狗のような歯と赤い舌が見えた。額から小さな角が生え始めた。
 よくも捨ててくれたなあ、と生成りは泣きながら言った。
 生成りは長之助に襲い掛かり、肉に喰らい付いたが、突然ぎゃっと叫んで飛びのいたので、長之助はほうほうの体で老婆の家を飛び出し山を下った。
 懐に八幡神社の札が入っていたので、生成りはそれを嫌ったのだろうということだった。長之助は三日煩い死んだという。

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書く練習。「お」→「嫗」
昨日老化を書いたので若返り。
いろいろ初の試みすぎる。

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栄華を極めたソロモンでさえ、この花一つほどにも着飾っていなかった。
  マタイによる福音書 6章29節


 ――アリスン、モデルを目指したきっかけは?
「そうね。気が付いたら憧れてたわ。母が言うには、私は小さい頃から鏡の前であれこれ服を着てみるのが好きだったって。ませた子どもだっみたい。でもモデルになろうと決心したのは一九九三年のアルトゥーロ・バカリの春夏コレクションを見てから。ものすごく衝撃的だったの、こんなにきれいな世界があるんだって」
 アリスン・チンは首を振って笑った。インタビュアーの、趣味の良くない眼鏡をかけた男性にどうしたらあのときの感動を伝えられるだろうかと思ったのだ。インタヴュアーはアリスンの笑顔につられて笑みを返した。
 当時のアリスンは結局のところ、周りからかわいいと褒められていい気になっている、田舎の小娘に過ぎなかった。シートにちょっぴり穴の開いた映画館で男の子たちとデートをして、まずい酒しかないクラブに行って遊んでいた。
 それがある日何気なく見たテレビに映っていた、アルトゥーロ・バカリの春夏コレクションを見たとき、アリスンの世界は一変した。
 舞台には生花の瑞々しい花びらが散りばめられ、金貨を縫い付けた薄絹のような服をまとったモデルたちが思い思いの姿で寛いでいた。ソロモン王の栄華もかくやと思われた。服は風もないのに、歩くたびに空気を含んで揺らめいていた。
 これこそアリスンの求める全てだと確信した。それからアリスンは必死に減量し節制し、エージェントリストと見本を作り、自分の足で仕事を探した。最初はことごとく落とされるも諦めずにいたら、拾ってくれるところがあった。最初は小さな仕事を任されているうちに、徐々に有名デザイナーの目に留まるようになり、数年後にアリスン・チンはトップモデルの一人にまでのぼりつめていた。
 ――そして成功した。成功の秘訣は? トップに上り詰めるのは並大抵のことではないでしょう。
「そうね。だけど信じることよ。だってそもそも田舎の女の子がモデルになるなんて、想像するのも難しいじゃない? そして自分で成功を信じられないなら、成功なんかするはずないわ」
 ――まさにその通りだ。
 ――では初めてバカリのコレクションに出ることになったときのことを聞かせてください。
 アリスンは初めてアルトゥーロ・バカリに会ったときのことを話しながら、インタビュアーの服の袖口を何気なく見ていたが、その布地や仕立ての良いことに気付いた。どこのブランドか分からなかったが、靴も既製品のようではない。眼鏡で趣味の悪い印象を受けていたが、そうではなさそうだとアリスンは思い、少し気を良くした。
 ――最後に。アリスン、あなたはとても美しい。その美しさの秘密は?
 アリスンは笑って、無意味な問いだと答えそうになるのを留まった。
「食事や運動も大事だけど、でも一番は自然体でいることよ。栄華を窮めたソロモンさえ、野の花ほど美しい服を持ってはいなかったと聖書にあるでしょう。あれってなぜかしら。ソロモンと野の花の違い。私はソロモンの服は美しくあろうとして作られたもので、野の花はそんな意図を持ってなかったから美しいっていう違いがあるんじゃないかって思ってるの。だから美しくあるためには自然体でいることね」
 ――なるほど。アリスン、インタヴューを受けてくださってありがとう。
「ありがとう」
 アリスンはインタヴュアーの名前を言おうとして、思い出せないことに気付いた。名刺をもらったはずだ、あとで確かめておこうとアリスンは思い、インタヴュアーを笑顔で送り出した。
 ところがインタヴュアーが去ったあとで名刺を見ると、それは裏表ともに真っ白で何も書かれていなかった。まさか印刷されていない名刺を渡されてしまったのだろうか、インタヴューが記事になるのはどちらでも構わなかったが、何とはなしに気になって、アリスンはインタヴュアーの所属する雑誌社に問い合わせた。だがその答えは「弊社は今月アリスンのインタヴュー記事を書く予定はありません」とのことだった。
 ではあのインタヴュアーは一体誰だったのか。にわかにアリスンは怖くなった。
 そしてはっとして、アリスンはバスルームに駆け込んだ。洗面台の上にある大きな鏡を覗き込むと、そこには醜く年老いた老婆の顔があった。

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書く練習。「え」→「栄華」
注意書き。
アルトゥーロ・バカリは架空の名前です。
後半でアリスンが言う、聖書解釈はちょっと間違ってます。本来の文脈では素直に自然の美しさを褒め称えていると思われます。
引用の聖書は新共同訳から。

昨日と同じく、カタストロフィー(?)を書きたかった。
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 一匹の幼虫が枝を這っている。太った体は十分に栄養を蓄えて、はちきれんばかりに張り詰めていた。枝の上で這っていた幼虫はあるところで止まり、そして枝に糸を張って足元を固定しそのまま動かなくなった。やがて表面は固くなり、幼虫は蛹となった。
 しばらくするとその背に切れ目が入った。だがその切れ目はほんのわずかなものだったので、中の虫が出てくることができるほどではなかった。遅々とした進みではあるが、切れ目が少しずつ大きくなっていったが、その間にも他の虫は飛び立っていく。
 ついにその蛹だけ羽化することなく、その季節は過ぎ去った。
 その後も切れ目は少しずつ大きくなりつづけた。しかしその次の季節が巡っても、その蛹だけは出ることがかなわなかった。その次の季節も、そのまた次の季節も。
 そして五年、十年、いや、二十年、三十年経ったある日のこと、切れ目は中の虫が出るに十分なほどになった。乳白色の羽が覗いたが、蛹の中で虫はとうに腐っていた。切れ目からペースト状の液体が地に垂れ落ちた。
 切れ目から出た羽は日に照らされ、ゆっくり乾いて伸びていき、七色の輝きが宿った。
 風が吹き、体のない羽はいっとき空に舞い上がり、地に落ちた。

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「う」→「羽化」。
昨日に引き続き、ひきこもりニートを表現してみました。
ものすごく眠いです。
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